●徹麺のカレーうどん　History＆Mind

　香川県さぬき市で4年間の学生生活を終え、大阪へ戻りました。

　平成３年、印刷会社へ入社。会社のすぐ近くに、ご夫妻でされていた食堂へよく行っておりました。他のお店にも色々と行き、気に入った味もありましたが、この食堂のカレー丼の味は、他では味わえませんでした。 
 
　さぬきうどん職人になりたいと決めた時、カレーうどんをご提供するなら、この食堂のカレー丼の味を！と強い気持ちが芽生えました。僕は、自分の事や思いをご夫妻の方に少しでも多くの事をお話させて頂いた上で、無理を承知で、ご夫婦ご自慢のカレー丼を教えて頂きたいとお伝えしました。
 
　長い沈黙になりました。

　奥さんが、旦那さんの耳元で、
「お父さん、原田君だったらいいよね」って言って下さいました。ご主人もその言葉を耳に、静かにうなずいて下さいました。 メニューにしたいという強い思いが伝わり、ご夫婦の心を動かしました。
 
　僕にとって、夢のような瞬間でした。
 
　数ヶ月後、近所の八百屋さんで、奥さんにお会いしました。 優しい笑顔で「頑張ってる？」ってお声を掛けて頂き、「頑張ります！」って、普段と変わらない、何気ない会話がありました。 
 
　八百屋さんが、僕と奥さんの話しをしていたのを見て、僕に、「奥さんを知ってるの？」って聞いてこられました。 
 
　「奥さんとこの食堂、この前、閉めたみたいよ！ ５０年近く続けてこられたのにねぇ。」
 
　『えっ！！』

　僕の中で、ものすごく大きなものを背負った気持ちと、大きな感謝の思いが溢れ、奥さんの後ろ姿に向かって、深くお辞儀を致しました。